黒猫

黒猫のスケルツォ

ガチャガチャと音を鳴らす袋を持った二人は真木のマンションを目指す。
二人分の腕があると思うと、かなりの量を買い込んだ。
自分たちの食料も同じく買い込んでしまったお陰で、二人の両手はスーパーの袋で塞がってしまっていた。

帰路の最中、他愛もない話で間を真木は繋ぎ止めていた。
おかげで彼のIQが200を越している事を初めて知った。
親元を離れたのが小学校の時からだと知った真木が納得した笑顔を湛える。

彼は普通人だけど普通人から爪弾きにあったのか。
素晴らしすぎる頭脳はある意味”超”能力だからな…。

そんな真木の考えが皆本に伝わるわけも無く、隣で音を立てる袋の中身を嬉しそうに覗き込んでいた。

「これだけあれば当分クロのご飯、困りませんね」
「ああそうだな」

今はそんな笑顔ができるんだから、心配することではない…か。
心で呟いた真木が明るい笑顔をする彼を見て、少し芽生えた老婆心を捨てた。

部屋に戻ると玄関先でクロが真木の靴に入って遊んでいた。
狭い所に入って遊ぶのが好きなのか、どこかしらに隠れたり、箱や袋に入り込んでは真木が捜すハメになる。

「こら! またお前は!」

まだ他の場所に探しにいかなくて済むとはいえ、靴の中に入られると流石に履いた時にクロの毛が靴下に付いてしまう。
細かい事だが神経質にもそれを嫌がる真木が、声に驚いて文字通り毛を逆立てたクロを抱き上げた。

ニャッ!

「クロ、困らせちゃダメだろ?」

抱き上げられて牽制する姿勢を見せているクロの鼻を皆本が小突くと、久しぶりの顔にクロが機嫌を取り戻す。

ニャア!

「痛ッ!」

抱き上げた真木の腕に爪を立てて皆本の肩へスルリと移動すると、すりすりと頬を彼に寄せる。
その仕草は本当に嬉しそうにした表情だった。…クロも、皆本も。

「何だ。私よりも彼の方が良いのか?」

面倒見てやった恩も忘れて…と、今度は真木の顔が不機嫌に歪んだ。

「そんなことないよな?クロ?」

ニャア。

「…現金なヤツだな」

まるで皆本に言わされた台詞の様に嬉しそうに返事をしたクロを真木は細めた目で見る。
その様子をクロを抱いたまま皆本が可笑しそうに笑った。

「焼きもち妬かれてるよー?クロ」
「兄弟だしな、お前らは。仲が良くて当然か」

私にとっては同じ拾い物。
真木がまだ不機嫌を装って部屋の奥へ入って行く。
その姿を見た皆本は、彼が本意で不機嫌で無い事を汲み取って笑顔のまま眉だけを下げた。

「…だってさ」

ニャ。

返事をしてきたクロを連れて皆本も部屋の奥へ足を進めた。

 

夕食を用意するには早い時間で、二人はクロの相手に興じる事にした。
小腹がすいてはお菓子に手を伸ばしながら、喉が渇いてはコーヒーを入れながら。

「そろそろ帰らなくても良いのか?」

過ぎる時間が速すぎて、気がつけば既に日が暮れ始めた頃、心配した真木が声をかけた。

「ええ。良いんです」

クロをあやしている笑顔を崩さずに皆本が返してきた。
明日もテストがあるはずだ。流石に復習勉強だってあるだろうに。

「前にも言った通り、帰っても勉強するだけだし」

笑顔のままクロを持ち上げると、赤子を高い高いする様にクロにもそうしてやる。

「馴染めないんですよね、周りは年上ばっかりだから。話し相手もいないんです」

要するに。年上ばかりの中、一人浮いている。
過ぎる頭脳が周りを敬遠させているのだろう皆本は、孤立している事をさらりと白状した。
だから夜遅くなっても誰も心配しないし、自炊をして一人で食事しているのか。

「だったら此処へ来ればいい」

いつか言おうとした台詞。戸惑って出せなかった言葉を真面目な顔で吐き出した。

「え?」
「クロの様に転がり込んできてもいいんだぞ?」

まるで犬猫をひょいひょい拾う様に軽く言った台詞は皆本の顔に困惑の表情を浮かばせる。

「そ、そんなつもりで言ったわけじゃ…」
「誰に気を遣うまでもない。クロを私だけに面倒見させるつもりか?」

突然降って沸いてきた誘いに皆本が明らかに動揺を見せてきた。
困った顔でやんわり断ろうとしてきた言葉を真木が判然と遮り、少々の脅迫材料も加えた。

少佐もまだまだあそこから出る気は無い様子だし、皆本が学校へ行っている間に用事は済ませられる。
お前が卒業する迄位なら一緒に居ても支障は無いだろう。

「どうする?」

余裕の笑みを浮かべた真木が返答に困っている彼と視線をぶつけた。

 

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